絢爛豪華な装飾の鯨船が、張り子の鯨親子を追い、船上の踊り子がモリを放つ――。幕末頃から年中行事として行われていたという説のある勇壮な祭礼行事「南楠鯨船まつり」が、10月12日(土)、13日(日)に四日市市楠町南五味塚地区で開催される。伝統を大切に継承してきた「南楠鯨船保存会」が音頭をとり、子どもから大人まで多くの人々が、祭りを盛り上げようと熱の入った稽古や準備に取り組んでいる。
10月7日夜、雨天のため、南御見束神社境内で実施予定だった外練習を見合わせ、南五味塚公民館(分館)で「鯨船の唄」の練習が行われていた。朗々とした歌声が部屋いっぱいに響く。「サアーサ―ヨォ」「ヨーシタヨシタヨシタ」。声はクライマックスに近づくにつれ、割れんばかりに迫力を増していく。部屋の端で太縄に腰を預け、両足首を大人に支え持たれる体勢で扇子を手に舞う少年の姿。小学5、6年の男子が担う練りの主役「踊り子」だ。今年、その大役に選ばれたのは、服部新汰さん(楠小5年)と植田十碧さん(同6年)。2人とも年中・年長児で「櫓漕ぎ」(踊り子と共に乗船し、櫓を漕ぐ役の子ども)を務め、小学4年以上の児童が担う「子鯨」の経験者でもある。
◆「元気よく間違えず」
「船の上に立つと、ちょっと怖い」と服部さん。なにしろ船は長さ約8.5メートル、高さ3.8メートル、重さ1.7トンにも及ぶサイズ。祭りの初日朝、南御見束神社を出発する「出船」の際の最初の練りで踊ることになっている服部さんは、「最初にやるので、元気よく間違わないように踊りたい」と笑顔で話す。自身も踊り子を経験した父の邦秋さん(45)は、「父の代から3代続けて踊り子ができるのは数少ないことでありがたい。今後も続けていければ」と顔をほころばせた。
◆「見に来る人を楽しませたい」
「踊りの動きは単純だけど、1つひとつの動作に意味がある。細かいところを丁寧にする」という植田さんは、祭りの2日目「入船」と呼ばれる最後の練りでの踊りを担当する。同保存会の竹野兼主会長(68)に「扇を顔にかざすところは、顔を隠してるんと違う。ああして鯨を探してるんやぞ」と声を掛けられると力強くうなずいた。「本番は、見に来る人が楽しめるように元気よく踊りたい」と語っている。
竹野会長によると、今年の練り参加者は、操船や鯨役など267人(内、20歳以下が91人)に上る。操船だけでも約50人が係わり、追われる鯨も今年は1杯増えて親子で8杯になり、ますます迫力ある練りが期待される。
祭り当日は、12日午前8時半に南御見束神社を出発し、地区内19か所を練り歩く。13日は、宮﨑本店(午前8時半)に始まり、午後6時の南御見束神社への入船まで21か所を巡る。
踊り子は、午前6時から着付けと化粧をして2日間の行事に臨む。「歴代の踊り子皆、祭りが好きで真剣にやっている。やる気いっぱいです」。この10年、踊りの指導を担当している清水浩明さん(51)は子どもたちの勇姿に目を細めた。