「病気や障害への理解を」 菰野中2年の橋本湊さん 脳腫瘍から高次脳機能障害

1105

【父に勉強を教えてもらう湊さん=菰野町で】

 脳腫瘍の摘出手術を受け、後遺症の高次脳機能障害と闘う菰野中学2年の橋本湊さん(14)。「病気や障害への理解を深めてほしい」と自身の経験を語ることを使命と感じている。

 小学6年生の6月、食欲不振や疲労感があり病院を受診しMRI検査を受け、脳腫瘍の一種で悪性の「混合性胚細胞腫」と診断された。そのまま入院になるほど危険性が高く、母の仁美さんはショックで頭が真っ白になり受け止めれなかったが、湊さんは「難しい病気だからこそ治してみせる」と前向きに捉えた。入院し同室の同じ病気と闘う子と励まし合った。

 手術は成功したものの、10月末の修学旅行には行けなかった。クラスメイトは、旅行先と病室をオンラインでつないで湊さんが画面越しに参加できるよう配慮してくれた。「僕のためにそこまでしてくれた」とうれしかったという。

 さらに手術後、高次脳機能障害を発症。脳の損傷で発症する認知機能の障害で、失語や記憶障害、注意障害などの症状が出る。厚労省の調査によれば、高次脳機能障害と診断された人は約22万7000人。外見からは分かりにくく「見えない障害」とも呼ばれる。

 湊さんは感情のコントロールができなくなり、「死にたい、辛い」と泣き叫んだ。母の仁美さんは「治るために手術を受けたのに、なんで湊がこんなに苦しまなくてはならないのか」と嘆き、2人で泣いたという。

 その後、高次脳機能障害に苦しみながらも、化学治療や放射線治療を乗り越え、卒業式の4日前に退院。久しぶりに登校し、友だちと話すことができた。湊さんは「この光景を待っていた」と喜びを噛み締めた。

他愛のないこともメモ

 中学に進学したが、障害によって記憶力が低下、数分前に聞いたことを忘れたり、授業の学習内容がなかなか覚えられなかった。1年の時は通常のクラスと特別支援クラスを行き来したが、大勢の生徒がいるクラスでは先生の目が行き届かず、湊さんが何に困っているのか周りや先生に伝わらなかった。2年になって特別支援クラスで過ごす時間が増え、湊さんに合った授業の進め方をしてもらえるようになった。家では父の陽さんから勉強を教わる。メモを取ることが習慣になり日常の他愛のないことも記録する。自分で書いたことを読み返して、クスッと笑うことも。湊さんは「来年は修学旅行に参加して、恋バナがしたい」と笑顔を見せる。

 今年7月、大阪の動画ディレクターが取材に訪れた際、湊さんは両親へ感謝の手紙を書いた。YouTube(https://m.youtube.com/watch?v=4cltOo4ZZAU)で公開された動画では、「闘病生活が乗りきれたのは家族のおかげ。支えてくれてありがとう、大好きだよ」と読み上げ、母と抱き合う様子を見ることができる。

 今も体力が戻らず、普通の生活は送れていない。湊さんは「高次脳機能障害の大変さを知ってもらいたい。頑張る姿を見てもらい、同じ病気に苦しむ人たちの力になりたい」と語った。