住宅街を馬が散歩!?――。四日市市羽津の浦田素子さん(67)は、5月に30才を迎える雄のポニー「コナン」を自宅で飼っている。浦田さんにひかれて、住宅街を「パッカ、パッカ」と散歩するコナンの姿が、近所で注目の的になっている。
コナンの散歩は約1時間で、許可を得た空き地の草を食べながら、自宅周辺を回る。近所の大人は庭先で足音がするのを楽しみに待ち、子どもたちは近寄って触れ合い、「動物園みたい」と目を輝かせ、時にはなでたり、浦田さんから「その草が好きだよ」と教えてもらい、食べさせることも。
浦田さんは市立羽津小、山手中に通い、高校は東京の学校へと進んだ。「地元でできなかったことをしよう」と馬術部に入部し、馬が大好きになっていった。
時間が取れない時期もあったが、50代半ばの時に長女から「好きなことしたら」と提案された。乗馬クラブへ通うようになり、“馬愛”がどんどん膨らむなか、飼育への思いも大きくなった。
3・11で故郷から避難 賢く落ち着きある性格
コナンは福島県南相馬市の牧場で1994年に誕生し、2011年3月の東日本大震災によって故郷を離れ、茨城県取手市の「小貝川ポニー牧場」に避難した。子どもを対象にした乗馬教室や、都内で開かれるイベントへの出演などを多数こなしてきたが、29才で引退へ。
牧場の手伝いやイベントなどでコナンと出会った浦田さんは、賢くて落ち着きのある様子に惹かれ、いつかコナンと一緒に暮らしたいと考えていた。引退したら、引き取ることを決めた。
馬小屋付きの家で暮らす
浦田さんは夫の退職を機に故郷の四日市市へ転居することに。コナンを迎えて飼育する環境を整えた。建物の設計段階から、敷地内をコナンが周回できるよう考慮。浦田さんは「全てコナン優先の家」と笑う。
コナンの馬小屋は、地元の建築会社「内田建築」が手掛けた。同社の内田寛さんが馬を飼育した経験があることを知り、依頼を決めたという。小屋は庭の日当たりの良い場所に建てた。
「ご縁」広がる
散歩中、昔見ていた景色が変わり驚くこともあるが、えさの干し草や小屋に敷くおがくずなどの調達を通して出会いや再会があった。また、馬ふんを「堆肥に利用したい」と引き取ってくれる人がいるなど、周囲の協力にも感謝しているそうだ。
浦田さんは「コナンのおかげで、何十年と離れていた故郷でご縁が広がっている。歩いて行ける場所なら、地域のイベントなど、触れ合う場にも出向ければ」と、美しい毛並みをなでながら微笑んだ。