叶わなかった中学生活 29歳で手に

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【みえ四葉ヶ咲中学校で教科書を読む川口さん】

 川口佳奈枝さん(29)は、この春、津市に開校する県立夜間中学「みえ四葉ヶ咲中学校」に入学する。家庭の事情などで小中学校に通うことができなかった。社会に出て勉強の大切さを感じ、独学を始め、この学校のことを知った。初めての中学生活。希望をふくらませている。

 幼い時に両親が離婚し、母と姉との3人で転々として暮らした。小学校へ通う年齢は福井県内で迎えたが、母に「お金がない」と言われ、通学させてもらえなかった。家から出ることも自由ではなく、市販の参考書を買ってもらい、母や姉に聞いたりし、小学3年生くらいの読みや計算を自力で身につけた。家にあった小説や図鑑を読むことが楽しかったという。

辛い過去より前を向きたい

 15歳でアルバイトを始めた時、漢字がほとんど書けなくて恥ずかしい思いをした。学校の思い出話も語れなかった。20歳で結婚して家を出たが、23歳で離婚。友達を頼って松阪市に引っ越し、自動車関連のメーカーに就職した。仕事で数学の三平方の定理の知識が必要になり、中卒認定試験を受けようと26歳から独学で勉強を始めた。三重に夜間中学の計画があり、「まなみえ」と呼ばれる週に1回の体験教室もできることを知り、津会場に通い、川越町に引っ越した後は四日市会場(県立北星高校)に通った。 

 「20歳までの人生を返してほしいと思うことはある」と話す。だが、報道を見ていると、死んでしまうなど、もっとひどい環境だった子がいる。自分は食べることができたし、命を奪われることもなかった。今の自分を認めてくれる友人もいるし、この環境を生きてきたから出会えた人もいる。「孤独だったが、勇気を出して一歩を踏み出し、辛い思いをしているのは自分だけじゃないと感じた」。過去よりも前を見ようと思う。

高校の勉強と中学の二刀流 

 中卒認定試験の勉強は孤独だが、「まなみえ」には「勉強したい」という同じ思いの仲間がいた。先生とも出会え、学ぶ楽しさに満ちている。中卒認定を取得して、27歳で通信制高校に入学し、あと1年で卒業だが、学校生活を取り戻したいと夜間中学の入学を決めた。「部活も体験したい」と中学への思いは強い。

 今は英語を勉強したいと強く思っている。「まなみえ」に通うアジア系外国人は英語を話せる人が多い。川口さんはバックパッカーの旅でゲストハウスに泊まることがあるが、自分も英語が話せたら、日本のおいしいものを教えてあげられるのにと思う。科学にも興味があり、論文を英語の原文で読んでみたい。あこがれの中学の生活は目の前だ。

みえ四葉ヶ咲中学校 4月開校。津市の県立みえ夢学園高校の敷地内にある。義務教育を修了できなかった人などが学ぶ「夜間中学」と不登校の人らが対象の「学びの多様化学校」の両コースがある。今年度の体験教室は四日市で。問い合わせは県教育委員会(059-224-2963)へ。

【夜間中学の前に立つ川口さん】

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