通勤通学など市民の足として親しまれる四日市あすなろう鉄道が、この4月で開業10周年を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大など予期せぬ事態もあったが、利用者数は当初計画をほぼ達成、堅実な運営を続けている。3月30日には開業10周年記念式典も行われる。
〇車両に冷房、沿線も変化
運転士の玉置吉司さん(69)は、開業時からの沿線の変化を見てきた数少ない1人だ。「最初は冷房のない扇風機だけの車両で、乗務は汗をかきました。全開の窓を閉めることが1日の最後の仕事でした。乗客のみなさんだけでなく、乗務員も楽になりました」
田んぼが多かった沿線ではマンションや戸建て住宅が増えたという。「内部駅のあたりではカエルが鳴いていたものです」。日永駅あたりからは今でもキツネやタヌキを見るそうで、動物たちはしぶとく生き抜いているようだ。

〇特急の運転と責任は同じ
玉置さんは近鉄の運転士として働き、伊勢神宮へ向かわれる昭和天皇ご乗車の特急に乗務もした。30代半ばで新任助役に就いたのが近鉄四日市駅で、その後、20年余り、近鉄名古屋駅で助役を務めた。近鉄四日市に戻り、2015年の開業時から四日市あすなろう鉄道の助役になり、65歳の定年後に運転士の仕事を任されている。70歳になる今年8月に仕事も区切りになりそうだという。
「時速120キロで走る近鉄特急も、30~40キロで走るあすなろう鉄道も、運転士の責任は同じ」と語る玉置さん。「沿線の人たちが親切で、とてもありがたかった。最後まで、お客様に信頼され、楽しかったと言われるような運転に努めたい」と話している。
〇利用者数が巻き返す
四日市あすなろう鉄道は、2015年度に四日市市が鉄道施設や鉄道用地を所有し、四日市あすなろう鉄道株式会社がそれらを無償で借りて運行する公有民営方式に移行し、運行を開始した。人口減少社会において、持続可能な地域公共交通の維持・確保の実現に向けて、四日市市や四日市あすなろう鉄道株式会社が利用促進などの取り組みをしてきた。
この10年の利用者数は、計画では2015年度の306万9000人から2024年度の283万人へと漸減する見通しだった。2020年度には新型コロナの影響で、計画の297万7000人を大きく下回る230万6000人まで落ち込んだが、その後は巻き返し、2024年度は計画の283万人を上回る見込みだ。利用者回復の要因として、2021年の海星高校の共学化や、沿線の住宅の増加なども影響しているようだ。
〇安全性確保、乗りたくなるサービス
次の10年(2025年度~2035年度)を計画期間とした「鉄道事業再構築実施計画」が3月25日付で国から認定され、引き続き、国、県の支援を得ながらの運行が続く。堅実な運営ではあるが、鉄道施設の老朽化など課題もあり、鉄道施設の計画的な更新による安全性確保のため、信号保安設備やレールなどの更新を行う。また、木まくらぎを合成まくらぎなどに更新し、軌道強化を行うことで事故の抑制を図り、定時性の確保や、駅舎トイレなどのバリアフリー化など利用環境の改善に努める。全国でも珍しい「ナローゲージ」のPRや四日市あすなろう鉄道を活用したまちづくり事業の推進、イベント列車の運行など、乗りたくなるサービスにも力を入れる計画だ。
