1959年から四日市萬古焼の耐熱原料に使われている鉱石ペタライト。リチウムが含まれており、電気自動車などの普及で世界的に需要が高まった。2022年、調達先だったジンバブエの鉱山が中国企業に買収され、輸入がストップ。萬古焼業界は土鍋が生産できなくなる危機に直面した。今後継続的に輸入できる見通しが立っていない中、いち早く「脱ペタライト」を実現させた窯元がある。
明治中期から陶器の製造を続けてきた内山製陶所(四日市市西阿倉川)の5代目、内山貴文さん(34)は、前職でリチウムイオン電池の原料関係の仕事をしていた経歴を持つ。2016年、業績不振を憂えた祖父の「何とかしてくれ」という要望に応えて家業を継ぐことを決めた。
売上回復のために新商品開発に取り組む中、前職で培った採掘に関する知見で、「ペタライト問題」勃発の6年前、原材料のリスクに気付いたそうだ。「ペタライトが枯渇した瞬間、土鍋は作れなくなる」。
代替技術開発の必要性を認識した内山さんは、独自の研究の結果、直火に対応し安全性も高いシリカを発見、ペタライト不使用の土鍋開発に成功した。「シリカは主原料がガラス。工業生産が可能なので供給が安定している」。5年を費やし、シリカを使った陶器の特許も取得した。ペタライトが入手困難な上、価格高騰により、業界では商品をかなり値上げせざるを得ない状況だが、シリカ製土鍋は撥水加工を追加し割高感を抑えている。
昨年までは品質管理に重点を置いて限られた納品だったが、実績もでき品質基準も確定したため、土鍋というコンテンツを守るために、シリカの技術を広めたいと思っている。「開発には資金が必要。特許は社会貢献です。消費者の求める品質の商品を提供する必要がある。伝統を能動的に守る姿勢を大切にしたい」と語るまなざしは熱い。「萬古の土鍋は火で割れちゃいけないんです」。