「地域の交流の場にしたい」と貝沼内科小児科(四日市市泊山崎町)では子ども食堂を開いている。120人程が訪れ、天体観測などを行い、子どもの学びの場になったり、夫を亡くし気力を失った人が世代を超えた交流を通して元気になるなど、笑顔が生まれる場になっている。
普段母子だけで食事する近隣の母子支援施設の入居者も食堂を訪れる。皆で賑やかに食卓を囲み、天体望遠鏡を覗き、「土星の輪が見えた」と目を輝かせる。音楽の生演奏やマジックショーを開くことも。貝沼圭吾院長は「子どもたちの感受性や学びへの関心を高め、生きる力につなげたい」と教科書とは違う「生の体験」の場を毎回用意する。
運営側に力を与えることも。子ども食堂のスタッフ、小川隆子さん(85)は夫を10年間介護していた時に、膝を傷め貝沼院長に手術を勧められた。「お父さんがいるから入院できない」と断ると、「歩けなくなったら誰が介護するの」と説得し、関係先に交渉し、入院環境を整えた。夫が亡くなり、生きる気力を失った時、先代の院長の悟さんやスタッフに「今までよく頑張ったね」と抱きしめられ、涙した。
悲しみに暮れる小川さんに、貝沼院長と管理栄養士の青山裕一さんが「子ども食堂やるから、助けて」と声をかけた。小川さんは病院で入院患者の食事を作る仕事をしていた。「恩返しができれば」と引き受け、2021年11月に1回目の「shell食堂」が開かれた。小川さんは配膳の列に並ぶ人の適量を見極め、手際よく盛り付けられた。「自分ができることで人の役に立てる」と、力が湧いた。今は数カ月おきに開かれる子ども食堂を心待ちにし、仲間を募って、ボランティアの輪も広がっている。
1月の子ども食堂では、海星高校の生徒が、四日市の名産品の渡辺手延製麺所(同市川北)の冷や麦を使った担々麺と伊勢茶を振舞った。レシピを考えた松岡桃杏さん(2年)は辛さの調節に苦心したそうで、おかわりする子を見てほっとした。「自分たちの世代だけでなく、子どもやお年寄りなど色んな人の視点で考えるきっかけになった」と話した。「shell食堂」は食を提供するだけでなく、大切なものに出会える子ども食堂だ。