三重県菰野町のパラミタミュージアムで2月3日、「町田尚子絵本原画展 隙あらば猫」が始まった。緻密に準備した視点で描き出された絵は、独立した作品として見ても魅力的だ。デビュー作から代表作までの数々の絵本原画のほか、制作のためにつくられた資料など約270点が紹介されている。3月31日まで。
町田さんは1968年東京都生まれ。武蔵野美術大学短期大学部を卒業、2007年に「小さな犬」で絵本デビューした。岩崎書店の「怪談えほん」シリーズで京極夏彦さんと組んだ「いるのいないの」で美しくも怪しい世界を描いた。近年では「ネコヅメのよる」など猫が主人公の絵本を制作している。「日本絵本賞」「講談社絵本賞」「絵本屋さん大賞」などを受賞している。
展示会場の入り口には、町田さんの作品の絵本コーナーが設けられ、自由に手にすることができる。町田さんが今回の展示に合わせて制作した特別描きおろし3点「図書委員」「満月リサイタル」「動かないで!」も展示されている。それぞれ、実際の館内の場所を採り入れて描かれており、昨年秋、会場視察で訪れて発想を得たようで、絵と実際の場所を見比べるのも楽しい。
「うらしまたろう」「おばけにょうぼう」「いるのいないの」など、物語の原画は幻想的だが、現実味がある。それぞれの作品を描くために用意された写真やスケッチなどの資料も展示されており、その緻密なことに驚かされる。家の間取りまで描いておき、どの角度からの視点で描くかを決めた様子も分かり、空想なのにリアリティを感じられる理由の一端に触れられる。
展覧会のタイトルでもある「隙あらば猫」は町田さんの座右の銘だという。様々な物語の中に、猫が主役として、わき役として、登場してくる。見ている人が猫の動きに誘われて絵の中に入り込み、絵の猫と視線が合って、絵が現実とつながっているような気分になる。
町田さんが最初に飼った猫「白木」をモデルにした絵も多く、「白木」にちなんだグッズが並んだコーナーもある。町田さんは東日本大震災が起きたあと、迷い猫たちに餌をやるボランティア活動に同行した経験があるといい、作品のひとつでは、多くの猫がこちらを見ているような表情で、心を奪われる。アクリルガッシュという1980年代生まれの画材を使い、猫の毛の感触までも描かれている。
期間中の関連イベントで、2月22、23日は「猫の日」にちなみ、両日とも先着100人の入館者に町田尚子展のポストカードをプレゼントする。25日午後2時から、町田尚子さんのトークイベント、同日に関連書籍を購入した50人(当日午前11時から整理券配布)を対象に午後3時からサイン会。3月3日午後2時から、佐藤愛さんのピアノで、パラミタコンサート「猫をめぐる音楽の旅」。猫関連の曲などを演奏する。
入館料は一般1000円、大学生800円、高校生500円、中学生以下は無料。会期中は無休。