子どもから大人まで舞台に釘付け 小さな劇場「海のツブ」観劇レポート

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【座組の皆さん(前列右から3番目が川口さん、同4番目が熊谷さん)=川口さん提供】

 1月14日午後、四日市市まちづくり財団主催の赤ちゃんから大人まで一緒に劇場空間を楽しめる「三浜文化会館アートスタートプログラム」として、小さな劇場「海のツブ」が上演された。音楽、美術、ダンスなど多分野で活躍している演出家の川口智子さんの作・演出で、ダンス劇作家の熊谷拓明さんが振付・出演。踊りと美術で表現する大海原を冒険する少年の物語だ。

【会場前のポスター=四日市市海山道町】

 

 三浜文化会館1階創作スペースに足を踏み入れると、四方を客席(背もたれがなく、横長の板を組み合わせた簡易なつくりの長椅子)が取り囲む正方形の「ステージ」があった。ステージ上に積み重ねられた大小複数の白い箱に浅く腰掛ける演者と思しき男性1人――。観客が思い思いの席に着き開演を待っていると、男性はおもむろに立ち上がり客席に移動すると、無言のまま何気ない様子で観客の小学生の女の子の隣にすっと座った。「えっ」と驚く女の子。四方の観客らも面食らっている。男性はおどけた表情で、さらに席を詰めるパフォーマンス。心得た女の子も苦笑いでそれに応じ、いつしか会場は温かい笑いに包まれ、男性(熊谷さん)の合図で拍手が巻き起こった。熊谷さんは別の席に移動し、そこでも観客と目線を合わせたり手を振り合ったりと先の読めない動きで観客の意識を集中させていく。ふと気が付けば、舞台はいつの間にか「海」だった。ボーっと鳴る汽笛の音、男の子の乗った小さな船が出航する。波が来る。うねる。その様子を熊谷さんは言葉を使うことなく、声という音・しなやかな体の動き・素足が床を擦る音などで巧みに描いていくのだ。 

【開演前、積み重ねた箱に腰掛ける熊谷さん=同作品アートディレクター野畑太陽さん撮影】

 

 熊谷さんのダイナミックで独創的なダンス表現はもとより、表情の豊かさ滑稽さに大人も子どもも魅了され、あちらこちらで笑いが起こる。「なんでしゃべらないのー?」、「えー、今度は何するの」、「あれなぁに?」、「きれいー!」、「うわぁ!」子どもたちの無邪気なツッコミや感嘆の声も始終沸き起こる。熊谷さんが臨機応変にそれらの声に感応し、呼応し、演技に組み込んでいく様の鮮やかなこと。

 「海のツブ」は、小さな劇場・少年の旅3部作の2作目という位置づけで、1作目の「太陽のタネ」に続き、2023年5月にくにたち市民芸術小ホール(東京都国立市富士見台)で初演。小さな子どもが観劇できる優しい空間とあって、その時その時の客席の反応によって、アドリブの要素が色濃く表れ、演者の対応力の見せどころが頻出するのが想像に難くない。上演のたびにその場の観客を巻き込み、毎回違った色で魅せることのできる希有な作品なのではないだろうか。演者と呼吸を分かち合えるような小さな劇場での舞台芸術体験スタートは、子どもたち自身の温かい記憶となって残るはずだ。

【白い箱から登場する美術の数々】

 

 小道具に使われる手作りの美術も造形や仕掛けがおもしろい。光ったり動いたり回ったりと、随所に工夫が施され、小さな観客を飽きさせることがなかった。また、海で拾ってきたゴミで作ったというウミガメや、ビールの空き缶で作ったクラゲなどエコな一面も。

 川口さんによると、小学校への巡回公演をしている1作目の「太陽のタネ」のように、「海のツブ」も学校や劇場を回る作品になればとのこと。また、3部作の完結編として、少年が宇宙を冒険する新作を企画しているそうだ。またぜひ四日市へも旅しに来てほしい「小さな劇場」である。

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