虫好き社員のアイデア生かす 新規事業でコオロギ繁殖 四日市市「サンエイホールディングス」

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 今までにない高付加価値のコオロギを――。公共インフラ工事やエネルギー事業などを展開するサンエイホールディングス(四日市市羽津中)入社4年目の和田小春さん(25)は、自他ともに認める「虫好き社員」。栄養源や飼料として利用価値の可能性を期待しコオロギを繁殖する新規事業を社内で立ち上げ、プロジェクトマネジャーを務めている。【コオロギを飼育しているケースを手にする和田さん=四日市市羽津中で】

 津市出身の和田さんは、幼いころから大の虫好き。三重大学在学中は、生物資源学部でミカンの研究に携わった。入社後はコンサルティングや営業などをしていたが、「本当に好きなことをプロジェクトにしてみたら」という上司からの話で、昆虫への思いがよみがえった。

 和田さんが注目したのはコオロギ。「専門家でもない、でも昆虫が好きだから可能性を追求したい」。2020年末、社内で新規事業をプレゼンし、採用された。思いが叶ったものの、知識も技術も必要な設備などもゼロからのスタート。駐車場内に設けられた広さ10平方㍍ほどの建物2棟が、挑戦の場となった。プロジェクト名は和田さんの名前をもとに「koharu lab.(コハルラボ)」と命名され、21年4月から本格始動した。

 飼育しているのは、東南アジア原産のフタホシコオロギと南西アジア原産といわれるヨーロッパイエコオロギ。プロジェクト始動にあたり、インターネット販売で購入した。日本では、は虫類などのペットのえさとして繁殖することが多いという。和田さんは試行錯誤を重ねた。

【繁殖されているフタホシコオロギ(上)とヨーロッパイエコオロギ(下)】

 飼育中、温度調節が上手くいかず、コオロギを死なせてしまったことも。研究論文を調べたところ、生存率が気温によって20%から80%も変わることがわかった。設備を整え、適温の30度ほどに温度を保てるようにした。

高付加価値のコオロギ目指す

 今、目指しているのは「高付加価値」のコオロギを生み出すこと。栄養価の高いエサを与えることで、カルシウムやビタミンが豊富なコオロギを誕生させることを目指し、三重大学との共同研究を進めている。実現すれば、ペットのエサとする際に、ペットにとって不足している栄養素を補うことができるようになるという。また、小麦の価格高騰などで、家畜の飼料にも影響が出る中、コオロギを利用することで問題に対応できるのではと、畜産関連のグループ企業とも研究を進めているそうだ。

 同社の山下友和社長(47)は「一見、弊社の分野外のように感じるかもしれないが、生産技術は様々な場面で活用できる。1つの分野に留まるのではなく、もう一歩、新しい領域に飛び込み、いろいろなことにトライし、多方面からの声を吸収することで、新たなサービスや価値を生み出す第一歩としたい」と話す。

 現在、コハルラボの建物内には、ケースに入った約3万匹のコオロギがいる。足を一歩踏み入れると「リリリ」と鳴き声が響く。ケースの中では次々にコオロギが誕生している。

課題解決に貢献を

 現在、畜産用コオロギ飼料の商品化に向けての研究にも力を入れている。「畜産業界のスーパーフード」を作り出すことが目標で、コオロギの飼料としての有用性を確かめる実証実験を計画している。「原料高騰に苦しめられる生産者に喜んでもらえるモノを生み出したい」と和田さん。「ただ数を増やすのではなく、価値を高めるクリエイティブな取り組みを進めていきたい。コオロギの可能性を拡げ、課題解決に貢献したい。そしていつか人間が昆虫に感謝する、そんな事業に成長させたい」と、元気に動くコオロギを見つめながら熱く語った。

                (2022年5月7日付発行 YOUよっかいち第207号紙面より)